夜の京都をぐるぐる巡る。映画「夜は短し歩けよ乙女」を観てきたので感想とか。
映画「夜は短し歩けよ乙女」。
劇場アニメ化発表から今か今かと待ちわびていたのですが、とうとう先日4/7に公開されました。
早速地元の映画館で観てきたので、内容を忘れないうちに(非常に濃い内容なので当分忘れないでしょうが)感想やらなんやらを綴っていきたいと思います。
そもそも夜は短し歩けよ乙女とは??
夜は短し歩けよ乙女とは森見登美彦氏の出世作とも言えるベストセラー作品ですね。
『夜は短し歩けよ乙女』(よるはみじかしあるけよおとめ)は、2006年11月に角川書店より出版された森見登美彦による小説。
第20回山本周五郎賞受賞作品[1]。第137回直木賞候補[2]、2007年本屋大賞第2位[1]。2017年2月時点で累計売上130万部を超えるベストセラーとなっている[1]。
大学一回生のときに同作者の四畳半神話大系という小説にを読んで思いっきり嵌ってしまい、次に手を伸ばしたのがこの作品でした。
森見さんの作品は京都が舞台のものがほとんどで、下鴨神社や鴨川デルタ、夷川発電所のように京都に実在する場所を織り交ぜながら、独特な夢世界が展開されます。
小説読んでいる間は頭のなかに京都がぐるぐると展開され、読み終わったときには誰しも京都に行きたくなること請け合いの作品ばかりです。
昨今はアニメの聖地巡礼が流行っているみたいですが、森見さんの作品に登場した場所を巡るのが私の個人的な楽しみになっています。
大雑把なストーリー
クラブの「先輩」とその後輩である「乙女」が主役で、先輩は「乙女」に首ったけであり、偶然を装ってしばしば彼女の目の前に現れることを心がけていた。一方、「乙女」はそんな「先輩」を意にも介していない。
先斗町で、古本市で、学園祭で「乙女」は自分の思うがままに楽しみ、「先輩」は「乙女」を追いかけ艱難辛苦を次々と乗り越える。
学園祭で開かれるゲリラ演劇「偏屈王」にて、乙女はヒロインの代役を務めることに。
一方、「先輩」はそんな乙女を追いかけ、最終公演の主役をジャックして「乙女」と最接近することに成功。
しかし、「先輩」は「乙女」に思いを告げられずに季節は秋から冬に。京都に蔓延する魔風邪に人々は倒れ、「先輩」も下宿の万年床に臥す羽目に。
一方「乙女」は風邪とは無縁。学園祭の一幕から「先輩」の存在が気になるようになっていた。
京都に蔓延する魔風邪の元凶を断ち切るために「乙女」は東奔西走。どんな風邪でも直す薬「ジュンパイロ」を手に「先輩」の元へ。
果たして二人の運命は??
もちろん、劇中には「乙女」や「先輩」だけでなく、自称天狗の樋口師匠や、願い事が叶うまでパンツを履き変えないパンツ総番長といったような魅力的(?)なキャラクターが数多く登場します。
実際のストーリーもここに書いてあるものより何倍も何十倍も奥深く、味わい深いものになっているので、原作を読んでみるか、何も考えずに劇場に足を運んでみると良いでしょう。
夜の京都を舞台に展開される奇想天外なストーリーに興じるだけです。これがとってもオモチロイ。
基本的には原作に沿いつつ、ところどころオリジナルの要素が組み込まれています。
原作ファンである私にも納得できるような内容なので、身構える必要はありません。
四畳半神話大系のスタッフ陣が織りなす楽しすぎるアニメ世界
映画「夜は短し歩けよ乙女」は2010年に放映されたアニメ「四畳半神話大系」と同じスタッフ陣が制作しています。
四畳半神話大系といえば、大学生である「わたし」があらゆるサークルに入った場合の大学生活をオムニバス形式で描いた知る人ぞ知る傑作アニメでありますが、本作にもその意匠はしっかりと引き継がれているので面白くないわけがないです。
観る人を作品世界に吸い込む唯一無二の演出
本作の監督である湯浅政明さんは、独特な色彩や不思議なパースを駆使した作品づくりが特徴的です。アニメだからこそできる表現にとことんこだわっておられて、写実的な表現とは対称的な印象を受けます。
劇場アニメ作品といえば、スタジオジブリ作品を筆頭に、とても細やかな絵作りがなされているという感じがありますよね。最近だと「君の名は。」とか。
しかし、湯浅監督はそのようなものとは違って、画面から得られる情報量はそれほど多くないけど、それを補って余りある特徴的な演出で一線を画しています。
何と言えばいいでしょうか、色とテンポと動きで魅せる感じですかね。
原作が持つ独特な心地よいリズム感をしっかりと汲みつつも、監督自身が持っているセンスを上手く織り込んでいる印象です。
この面白さは他者の追随を許さないというか、この人にしか作れない世界なんだろうなぁという気がします。
今作でも湯浅ワールド(勝手に命名させていただきました)は健在で、夜の先斗町での飲み比べのシーンや古本市での闇売、学園祭の一幕がとにかく楽しくて、スクリーンを始終ニヤニヤしながら眺めていました。
特に「乙女」が先輩に風邪薬「ジュンパイロ」を届けに行くシーンが良かった。
「先輩」は「乙女」が自分の下宿に来ようとしていることを事前に知るのですが、そこでの「先輩」の心の葛藤を脳内会議のような形で描いているのですが、それが正に...という感じです。
アニメの新たな可能性を感じさせます。
魅力的なキャラクターとそれを演じる声優陣
作品のキャラクターも、それを演じる声優もとても魅力的な方ばかりです。
先輩(CV : 星野源)
主人公の「先輩」を演じるのは星野源さん。
俳優、歌手、文筆家と余りある才能を遺憾なく発揮しておられますが、声優は難しいんじゃないか?と、観る前は思っていました。しかしそれは杞憂に終わりましたね。
いったいこの人は何者なんだ?少しは才能を分けてほしいです。
「先輩」のキャラクターと星野源さんのキャラクターがバッチリ嵌っていて星野源さんのファンでもそうでない人でも、きっと「先輩」が愛おしくなってしまいます。
乙女(CV : 花澤香菜)
こんなに健気で可愛らしい黒髪の乙女がいたら、私も先輩同様、首ったけになってしまいますね。悲しいかな、現実にはこんなに愛らしい乙女はいません。そもそも黒髪の乙女すらあまり見かけません。私の大学に至っては乙女すらあまり見かけません。
そんな乙女を演じるのは花澤香菜さん。キレイな声が乙女にピッタリです。
ああ乙女よ、どうか私にもおともだちパンチを。
学園祭事務局長(CV : 神谷浩史)
女装を趣味とする学園祭事務局長を演じるのが神谷浩史さん。
神谷浩史さんといえば女性アニメファンにとどまらず、一部の男性アニメファンの耳を孕ませんばかりの甘いボイスが魅力的です。
事務局長の美貌には神谷浩史さんの美声がピッタリです。女装した学園祭事務局長は男である私もおお....!! と思ってしまうほど。数多の男子学生が不毛な恋路に誘われるのも無理はありません。
樋口師匠(CV : 中井和哉)
四畳半神話大系では藤原啓治さんが演じておられましたが、今作で樋口師匠を演じるのは中井和哉さん。
中井和哉さんといえば、強面キャラというか男気溢れるキャラを演じていられるイメージがあったのでこのキャスティングは以外でした。
藤原啓治さんの樋口師匠イメージが強すぎたのではじめは耳が慣れませんでしたが、次第に気にならなくなってきます。これは流石といったところ。
本作でも樋口師匠の奇々怪々ぶりは健在です。
羽貫さん(CV : 甲斐田裕子)
酒豪の歯科衛生士、羽貫さんを演じるのは四畳半神話大系と同様、甲斐田裕子さん。前作同様安定した演技が光っていました。
サークル「詭弁論部」の送迎会、還暦祝いの集いに乗り込みただ酒を嗜む羽貫さんも風邪には弱いのです。
浴衣を着た羽貫さんはなんとも艶めかしい。
パンツ総番長(CV : ロバート秋山)
昨年の学園祭で一目惚れした女性に再び合うまでパンツを履き替えないとこころに決めている、いわば男の中の男であるパンツ総番長を演じるのはロバートの秋山さん。
外見がどことなくパンツ総番長に似ている秋山さんですが、パンツ総番長らしさ溢れ出る演技も素晴らしかった。今回一番のキャスティングじゃないかなと勝手に思ってます。
「てきめん病気になりました。しかし、どっこい生きている。」
紀子さん(CV : 新妻聖子)
原作ではパンツ総番長の一目惚れした女性として登場する紀子さんですが、今作ではゲリラ演劇「偏屈王」を取り仕切る立場に。
今作では、ゲリラ演劇「偏屈王」はミュージカルになっているので劇の登場人物が歌うシーンがあります。その最終公演で紀子さん自身が舞台の外から歌うシーンがあるのですが、他のキャストを圧倒する歌声でビックリしました。
新妻さんはミュージカル女優ということで歌唱シーンはもちろん、日常芝居の自然な演技も見事でした。
古本市の神様(CV : 吉野裕行)
悪き古本蒐集家から本を解き放つ古本市の神様を演じるのは吉野裕行さん。四畳半神話大系では主人公の悪友である小津を演じておられました。
栗色の髪の美少年という原作の描写とは正反対の、憎たらしい小僧という感じになってますが、この愛らしい感じが小津にそっくりでした。
というか小津。
ここでは語り尽くせない魅力が詰まっている
小説を読んだ人であれば、自分の思い描いたキャラクターや京都の町並みと映像との差を楽しむのもよし、全くの別作品として観るのもよし。
四畳半神話大系のファンであれば、見覚えのある人物や心地よいテンポ、洗練されたキャラクターデザインに傑作アニメの再来を感じることでしょう。
星野源さんのファンであれば、救われない「先輩」を守って挙げたくなるでしょう。
全く興味のない人も、映画館に観終わった後には無性に京都に行きたくなるでしょう。
夜の京都を舞台に展開する不思議な世界。みなさんも魅惑の世界に足を踏み入れてみませんか?
夏の古本市に行ったときの記事です。興味があったらぜひ。
- 作者: 森見登美彦
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- 発売日: 2008/12/25
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